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『九条の大罪』が描く“正義なきリアル”――従来の漫画とは違う6つの革新と魅力

 

 真鍋昌平の『九条の大罪』は、2020年から「ビッグコミックスピリッツ」で連載が開始された社会派漫画です。

 

 法と倫理、善と悪、加害者と被害者――。

 これらの境界を曖昧にし、読者に思考を突きつけてくるこの作品は、これまでの漫画の構造とは一線を画します。

 

 今回は、『九条の大罪』が、従来の漫画と何が違い、どこが新しく、なぜ魅力的なのかを6つの視点から深掘りしていきましょう。

 

 

 

【1】ヒーローではなく“冷徹なリアリスト”が主人公


 従来の弁護士漫画では「正義の代理人」として主人公が描かれることが一般的でした。

 しかし、『九条の大罪』の主人公・九条間人(くじょう たいざ)は正反対。

 


 彼は冷静で感情に流されず「依頼人の利益最大化」のためなら法のグレーゾーンすら活用します。

 正義の名の下に誰かを断罪することはしない。

 時に加害者、反社、家庭内暴力の加担者すら擁護するその姿勢に、読者は戸惑い、惹き込まれていきます。

 


 このアンチヒーロー的存在こそ、現代社会を映す新たな主人公像なのです。

 

 

【2】描かれるのは“現実すぎる社会問題”


 本作で扱われるテーマは、どれも現代日本に深く根を張るものばかり。

 その描写はときにショッキングで、ページをめくる手が止まるほど。

 だが、それこそがこの作品の本質です。

 


 作者は、きれいごとでは語れない現代の闇を真正面から描いています。

 事件の背景には家庭や社会構造があり、単なる“悪人”ではない人々が、弱さや未熟さゆえに“罪”を犯してしまう。

 

 読者はただ観察者でいられず、いつしか「自分だったらどうする?」と登場人物と同じ地平に立たされている自分に気づきます。

 

 

【3】“正義”が解体される構造

 

 本作にカタルシスはありません。

 正義も勝利も、スカッとする展開も一切登場しない。

 むしろ繰り返されるのは「これは正しいのか?」「間違っているのか?」という問いの連続です。


 『九条の大罪』が提示するのは、“正しさ”が常に揺らぐ世界。

 読後、心に残るのはモヤモヤとした葛藤と、「私たちはどう生きるべきか?」という内省です。

 

 


【4】派手さより“言葉の重み”を武器にする


 この作品には、戦闘シーンも超能力もありません。

 その代わりにあるのは、圧倒的な言葉の応酬。

 

 弁護士としての九条が、検察や依頼人、家族などと交わす言葉は、まるで剣のように鋭く、重く、時に深く心を刺してきます。

 

 読者はその“言葉の戦場”に立ち会うことになり、物語に巻き込まれるというより、共に裁かれる感覚すら覚えることもあります。

 

 

【5】グレーゾーンの人間讃歌


 『九条の大罪』に登場する人々は、みな一様に“正しくない”。


 だが、その誰もが自分なりに悩み、葛藤し、どうにか生きようとしている。


 この物語は、“白黒をつける”のではなく、グレーをそのまま描ききろうとしているように見えます。


 だからこそ、読み終えた後に残るのは、「これは自分の話でもある」という妙な親近感と、生々しい現実感です。

 

 


【6】時代にフィットした“新たなリアリズム漫画”


 近年、社会の構造や倫理観はますます複雑になっています。

 誰もがスマホで意見を発信でき、正義が細分化されているこの時代に、『九条の大罪』はピタリとはまります。

• 「正義とは何か?」

• 「誰のための法律なのか?」

• 「“無罪”は本当に“正しい”のか?」

 

 そんな、今の日本社会が抱える問いを、一切の脚色なしに突きつけてくるのです。


 だからこそこの作品は、単なる法廷ドラマではなく、時代の鏡として読むべき現代劇なのです。

 

 


【まとめ】九条の問いは、読者の内面を映す


 『九条の大罪』は、善悪では語れない「人間そのもの」の姿を描いています。

 法律の裏側、人間の弱さ、社会の矛盾――それらがすべて詰め込まれています。


 だが同時に、この作品は希望も描いています。

それは「人は誰しも不完全だが、それでも生きていくしかない」という、極めて人間的なメッセージです。

 

 


【こんな人におすすめ】

• 社会問題に関心がある

• 既存の価値観を揺さぶる作品が読みたい

• モヤモヤを抱えながら深く考える読書体験が好き

• 『闇金ウシジマくん』のリアルさが刺さった

• 勧善懲悪の“テンプレ漫画”に飽きた

 


【終わりに】“正しさ”に疲れたあなたへ


 SNSでの炎上、価値観の衝突、正義の押し付け――

 「正しさ」を巡って消耗するこの時代だからこそ、『九条の大罪』のような“白黒をつけない物語”が必要なのかもしれません。